月夜見
 残夏のころ」その後 編

    “お途惚け者からのお届け物ですvv”


ちょっと前だとゲリラ豪雨とか、爆弾低気圧。
それに習ったと思えるそれ、
最強寒波なんて言い回しがお目見えしたこの冬で。
前々からも使われてたよと言う方もおいでだが、
一般市民の耳へ、しかもこうまで強く広く届いたのはこの冬が初かも。
それほど強烈な描写でないともう何とも言いがたいとするような、
凄まじい寒さと、それに乗って来た豪雪が続いたこの二月であり。
殊に先週のバレンタインデーから数日ほどは、
それは途轍もない大雪となり。
前の週に予行演習みたいな風の強い大雪があったのに、
それでも備えが足らぬほど、とんでもなかった こたびの豪雪。
何しろ今度は水っぽくて重たかったものだから、
それでなくとも北領仕様ではない平野部の、
主には雨除けだろう庇や屋根が、
それはもうあちこちで落ちたほどだったし。
降雪自体は降りやんでも、気温は低いままだったのが祟って、
降り積もった雪はなかなか解けて消えぬまま。
それに遮られ、または足を取られてのこと、
あちこちの幹線道路で車が立ち往生したままになったり、
遠方への足を封じられ、孤立してしまった集落があったりと。
雪への慣れがない土地だからこその災害になってしまった感もあり。
去年の一月の成人式豪雪を上回る、
本当に大変な二月として、後世の語り草とされそうだったので。

 「お。ゾロも今日からか?」
 「そうっス。」

午後からのシフトか、昼のうちにお目見えのお元気坊やが、
従業員用の食堂で、何やら あぐりと食しておいで。
窓がほんのりと曇るほど、食堂の中はしっとりと温かく。
陽こそあるが きょうはまだ風が冷たい外から入って来た身には、
何ともホッと出来る空間で。
そんな休憩室の一角にて、
青果部門のオープンスペースで青菜担当、
小柄だけれど元気溌剌なルフィさん。
食いしん坊なことでも名を馳せておいでな彼が頬張るは、
もう午後なのでおやつらしき、
結構な大きさの、どうやら中華まんらしいのだけれど。
今日は店頭販売のブースは出てなかったよなぁと、
後から来た搬入班のお兄さんが、小首を傾げておれば、

 「お前も食え食え。美味ンめぇぞぉ〜、これvv」

テーブルに置かれた大きめの皿には
あと2つほど同じものが乗っており、
蒸かしたてなのだろう、
どれもほかほかと湯気をまとっての魅惑の装い。
じゃあと遠慮なく手を延べて、
熱さには強いらしく、
それほど吹いて冷ましもせぬまま がぶりと齧り付けば、

 「………お。」
 「な?な? 凄い美味さだろ?」

こういう肉まんと言えば、
豚肉のミンチと茹でて水気を切ったハクサイ、
シイタケ、ネギにタケノコのみじん切りとをよく練って、
風味にショウガを効かせた“あん”を、
強力粉にイーストを使ったふっくらした側生地でくるんで
聖篭(せいろう)や蒸し器で蒸して作るのが基本だが、

 「何か、中華街の高いほうの肉まんの味っスね、これ。」
 「だろだろ?」

判るか凄いなと、自分の作品を しかも褒められたかのように
うんうんと満足そうに頷く坊ちゃんであり、

 「ホタテのほぐし身がこっそり入ってるその上に、
  春雨みたいのは歯切れが違うから恐らくフカヒレ。
  豚ミンチも特別なの使ってて、なのに1個300円っ。」

コンビニの肉まんだと安いのなら100円で買えもするから、
決して“安い”とは言えないが、
彼らの顔が半分は隠れる大きさだし、
ずっしり重くてしかもそんな中身と来ては、
随分な太っ腹設定と言わざるを得ない。

 「…あ、300円っスか。」

作業着に重ね着たジャンパーのポッケから
財布を出そうと仕掛かるゾロなのへ、
いやいやいやと手を振り、

 「いんだって。
  これって売れ残りだからって、
  俺もタダでもらったんだしよ。」

というか、今日の此処の社員給食のお昼ご飯が、
これとスープにフルーツゼリーだったらしく、
多いめに作りおいてた冷凍ものを、蒸かし直してこの旨さ。

 「俺も期末テストで今日まで出て来られなかったんだがよ、
  これって昨日一昨日限定で売ってたらしくてさ。」

本来と言うか、いつもの流れだったらば、
自分がこれの
売り子を担当していたかもしれないブツだと説明されて。
うあ、それは口惜しいと思ったらいいのか
助かったと思ったらいいのかと、
ちょっと悩んじまったと、ややこしいことを言うルフィ先輩。

 「? 何でっスか、それ。」

お礼というのも何だけど、
食堂の中にある自販機でコーラを買って差し出しつつゾロが訊けば、

 「だってよ、
  こんないい匂いのするもんの間近にいる当番だぜ?
  ずっと幸せだけど、でもでも、
  自分は食べれねぇなんて地獄じゃんか。」

今だけは お口の中には何も頬張ってないはずなのに、
まるで幼子のように、
不機嫌からぷんぷくぷーと膨らませておいでなのが、

 “…可愛いじゃねぇか、おい。////////”

まったくもって、けしからぬ先輩さんだぜと、
内心でだけはタメグチを利きつつ、
うにむに こちらも含羞んでおれば、

 「なんで平日の昨日一昨日だけ売ったんだって
  シャンクスに訊いたらよ。
  2月20日は“夫婦円満の日”だったからだと。」

 「夫婦円満…?」

間違いなく語呂合わせだろう、微妙な記念日。
そこへ、饅頭というのを更に引っ掛けたらしく。
だがだが、ウチと関係あるか?それって訊いたら、と
続けかかった坊ちゃんの後を引き継いだ別の声が割り込んで。

 「ウチの家具センターが、
  そういうフェアをやっとったのとの協賛だ。」

 「あ、サンジ。」

実は寒がりだったものか、
南極越冬隊かと言われそうなほどの、スキーウェアだろう重装備。
ダウンだろうジャケットに綿入りだろうパンツといういで立ちが、
暖房には負けたか、ばたばた脱ぎつつだってのに。
そんな所作とは関係ない、ちょっと居丈高な態度で言い放つ彼で。

 「あ、そうか。」

ご丁寧に下に着ていてたらしい、
普通仕様のスラックスやジャケット姿になったのへ、
厨房にいた おばさまがたが おや残念と思ったのはともかく。(おいおい)
ポンと手のひらを拳で叩いたルフィさんが気づいたのが、

 「いっつもみたいに
  レイリーのおっちゃんの“銀嶺庵”から仕入れたんかと思ったが。」

 「ああ、今回のそれは俺が作ったんだよ。」

だから、レシピは門外不出だってのに、

 「ようもそこまで隠し技を見抜けたよな、あっさりと。」

さすがは食いしん坊、侮れん奴めと、
忌々しげに眉をしかめたものの、

 「何だよ、今 判ったばっかで、ゾロにしか話してねっての。」

秘密のレシピを話しやがって、
機密漏洩だと怒ってる従兄弟殿だと。
そこはさすがに気づいたらしいルフィの、
やはり膨れながらのお言いようへは、

 「そこじゃねぇよ。」

あっさりとかぶりを振った金髪の天才シェフ殿。
ちらりんと短髪頭の後輩くんを見やってから、
ちょいと尖ってた表情を苦笑でゆるめ、

 「お前が誰かへ食べ物を譲るなんて、
  天変地異でも呼びたいのかと凄まじく驚いただけだ。」

 「そこまで言うか。」

失敬なと、むうと口許を歪めた坊ちゃんだったれど、
ああそこかと、内心でさっきのルフィよろしく、
手のひらを拳で叩いたゾロだったのは言うまでもなくて。(おいおい)
ただ、

  あ、そっか。求愛行為の給餌行動だったのかなぁ?、と

そこまで言ってたサンジさんだったなら、
二人揃って真っ赤になっての大騒ぎになってたかも知れなかった、
ちょっとしたお騒がせの昼下がり。
今日は まだまだ寒さも強いものの、
明日からは少しずつ、いいお日和の暖かさがやって来るとか。
そういうホットな話題も大きに似合うだろ、
暖かな春はもうすぐですよ、おのおのがたvv




     〜Fine〜  14.02.22.〜02.23.


  *タイトルに深い意味はありません。
   テレビを ながら見していたら、
   お途惚けもので〜すと聞こえて来て、
   何だ何のギャグだろかと思ってたら、
   “お届けもの”の聞き間違えだったという…。
   トシは取りたくないやねぇ。(笑)


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

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